南米最大の都市サンパウロを舞台に描く30代の現実

希望の大国ブラジル

経済振興国BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)の筆頭国として、ブラジルが頭角を現したのは、2010年末に2期8年の任期を全うしたルーラ政権時代。本作の冒頭で、「私たちは低迷期を脱しました」と宣言するルーラ大統領は、貧富の格差是正に取り組み、特に子供の就学や保険チェックと引きかえに行った貧困家庭への手当(ボルサ・ファミリア)は世界から注目をあびた。2008年のリーマンショックに端を発した国際金融危機からもいち早く立ち直り、ルーラ大統領任期満了後、2011年には同じ労働党出身で、初の女性大統領、ジルマ・ルセフが就任した。極貧層の子供たちへの支援を強化する一方で、ワールドカップを前に都市部家賃の高騰やインフレ、高い税金で中間層が疲弊、2013年6月には、公共交通運賃値上げに端を発した大規模反政府デモが起こり、大統領は値上げ分を国庫で補うとした。大規模デモは一旦、収まったものの、サンパウロの競技場のクレーンが倒れて作業が1ヶ月中断し、未だに前途多難。2013年の経済成長率は1%を切る一方で、インフレ率は5.84%(ブラジル地理統計院)。特に食料品価格が値上がりしているのが現状。

希望なき30代

ブラジルは1964年から1985年まで軍事政権下におかれていた。民政移管した1985年に子供だった
か、まだ生まれていなかったのが、この物語の主人公たち。フランシスコ・ガルシア監督を初め、共同脚本家もプロデューサーも同世代。自分たちや周りの友人たちのエピソードを交えて脚本を書いた。
「僕たちの世代は、大きな不安と空虚を内に抱え込んでいる」と監督は言う。
地方から、仕事を求めて大きな街に集まる若者たち。10代から20代で都市へ出てくる彼らが、大都市の周縁(低所得層)を形成する。学歴もなく、簡単に解雇される仕事にしかつけない。経済成長やグローバリゼーションは高い能力を持つものには恩恵となるが、それ以外の者たちには、厳しい現実をつきつける。「ここではないどこか」「もっとマシな生活」を求めても、それを得る手段がどこにあるのかが分からない。「大卒じゃないと何をしてもダメ」というルアラに、ルカは言う。「学歴なんて関係ないさ。大学を出ても仕事がないヤツは大勢いる」
前にも進めず、後戻りをする場所もない3人。ルカの祖母やルイスの上司、下宿屋の女主人、そして、ルアラに「夢を持て」と迫るパイロットとの関係を通して、彼らが直面する現実の閉塞感を時にユーモアを交えて描き出した希有な作品。